教室紹介
分子病理学は、病理形態学的な知見の上に、分子生物学的手法を用いて疾患の成り立ちを解析し、実際の診療に役立てることを目的とした学問です。病理形態学は人体の神秘を直接目にすることのできるかけがえのない機会です。私たちはそこからさまざまの研究のチップを見出し、特にがんとそれに関係する代謝について研究を進めています。
分子病理学教室は、奈良医大の当時のがんセンターに伊東信行先生(後に名古屋市立大学学長)を教授として設置された腫瘍病理学部門を起源とします。伊東先生は動物実験による発癌研究を専門として発展し、第二代教授の小島清秀先生(後に名古屋大学教授)を経て、第三代教授の小西陽一教授のもとで膵発癌と肝発癌の動物モデルを樹立されNASH研究にも応用されています。私は、小西教授のあとを襲い2001年に教授に就任しました。私は、教室伝統の動物モデルを用いた研究に、前任地の広島大学第一病理田原榮一教授、広島大学分子病理学教室安井弥教授、そして、留学先のMDアンダーソンがんセンターがん生物学教室のIsaiah. J. Fidler教授から教えをいただいた分子病理学的研究を統合して、研究を続けて来ました。
がんは1981年に日本人の死因第1位になった後も増加し続けており、今や2人に1人ががんになり3人に1人ががんで亡くなる時代になりました。これを克服するために、臨床と基礎の境なく研究が行われており、病理学はその一翼を担っています。病理学の強みは、がんを自分の手に取りそれに割を入れて観察し、さらに、顕微鏡でその顔つきを間近に見ることができる点です。先述したように、ここから私たちは研究の契機となる疑問を抽出し、さまざまな手法を用いて疑問の解明を行なっています。
私の教室の特徴はなんといっても自由なことです。研究テーマやその進め方は、本人に多くを任せています。もうひとつの特徴は、女性が活躍する教室であることです。病理学は、出産や育児といった女性のライフスタイルに有利な科目です。私の教室でも私以外の5人のスタッフはみんな女性です。
病理学は3種類の人たちのキャリアパスに応えることが可能です。病理診断を通じて医療に貢献したい人には、診断のノウハウを伝え研修を通じて病理専門医試験を受験し病理専門医になるパスがあります。病理を基に疾患の基礎研究を行いたい人には、上記の病理専門医研修コースにプラスして基礎研究を行い博士の学位を取得します。奈良医大には、研究医養成コースがあり、これを選択した医学生には卒後のキャリアパスが保証されています。病理を通じて疾患を研究し自分の専門技能の深化に結び付けたい人には、修士コース、博士コースや、学位とは関係なく研究したい人のための研究員システム、博士号取得後も研究を続けたい人のための博士研究員システムがあります。多くの人が病理を通じて疾患への理解を深めることが出来ればと思っています。
國安弘基